●アサブロに復帰します2018年01月01日

 河合隼雄先生と谷川俊太郎さんの対談(人間の深層にひそむもの)のなかに、
 「書くというのは自分の心のモヤモヤを意識化すること」
という谷川さんの発言があります.


  小西歯科医院のホームページを作り始めてから20年以上の月日が流れていますが、ホームページを書くことで心のモヤモヤを意識にのせることができて、自分自身のバランスを保っていたという部分があったように思います. 

 歯科大学を卒業後いろいろなめぐり会いの中で、歯科の専門雑誌に論文らしきものをたくさん書かせてもらい、 ある編集者との出会いもあって、4冊もの書籍を出版するという幸運にも恵まれました.

 その間、歯科医師会の依頼でDVDを作り、全国の歯科医師会やスタディーグループ、臨床歯周病学会の教育講演や千人近くも集まる業者主催の講演会で話をさせていただく機会もありました.
 そのような発表も実は自分のなかのモヤモヤを意識化する絶好の機会だったことを今さらながら感じています.

 幸か不幸か今年は講演の依頼も執筆の予定も入っていないので、休眠状態だったアサブロに思いつくままを書き連ねることで自分の全体像の回復をはかろうかと考えています. 

 本年もよろしくお願い申し上げます.

●今年は何を読みますか?2018年01月02日


 片山セミナーを受講して以来、歯科臨床は削る、抜く、かぶせる、詰めるという歯科的介入だけでは満足する結果を得られないということを実感してきました.

 片山先生も口をすっぱくして、歯科だけの勉強だけでは足りない、他方面の読書をしなさいと仰っていました.

 ここ十数年は、中村雄二郎先生の「臨床の知とは何か」と河合隼雄先生の著作群に魅力を感じ、難しいながらもずっと読み進めています.

  
 昨年は臨床の知の対極にある科学の知を知るために、西欧人の考え方、科学の誕生に密接な関係があるルネッサンスを知るために、塩野七生さんの『ルネッサンスとは何であったのか』を読みました.
 しかし、ルネッサンスのことが多少なりとも分かると、どうしてもローマのことを知らなければ、西欧人のものの考え方は理解できないと思うようになり、『ローマ人の物語』に没頭し始めました.

 ローマ人の物語は何巻もあるので、近くのブックオフで108円のものを探していましたが、梅原猛さんの「葬られた王朝-古代出雲の謎をとく」が目に留まって、何となく購入したのですが、これが猛烈に面白くて、古代日本に夢中になってしまいました.

 
 神話と歴史が交差する混沌とした日本の古代史はいかような解釈も成り立ち、歴史的観点もさることながら、日本人の考え方、日本人の心も気になってきます.

 そこで、「神話と日本人の心」や「昔話と日本人の心」など河合先生の著作に戻ってきて新年を迎えたというのが、現状です.

 今年は中村先生と河合先生の本を基盤に、ローマ時代と日本の古代についてもう少し勉強してみようと考えています.
 それはおそらく臨床の知や深層心理学に関する理解を深めてくれるのではないかと思います.
 それ以前に、それらの書籍は読んでいてワクワクする面白さがあるのが魅力です.
関連項目:



●現代人の不安と全体性の回復2018年01月03日

  われわれの自我はその存在が危険にさらされていることを予感するとき不安を感じ、その対象がはっきりしてくると不安は恐怖に変わるそうです.



 何年か前に胸がきりきりと痛くなり、寒い季節なのに額からあぶら汗がしたたりおち顔面蒼白になるというできごとがありました.
 心筋梗塞そのものの状態だったので、あわてて救急にかけつけたのですが、検査の結果心臓疾患の徴候は認められず、痛みの原因は分からないということで一泊しただけで帰ってくることができました.

 その後は、血圧も安定して、特に心配する要素がない状態なのですが、胸に軽い違和感を感じるだけで強い不安を覚えるようになりました.

 偏頭痛や胃腸の痛みなどではその痛みがかなり強くてもまったく不安を覚えないのに、心臓だけは特別です.

 心臓の不安は私の個人的な不安ですが、多数の人が同様にもっている不安もあります.

 東日本大震災の未曾有の被害は人々を絶望の淵に追いやり、福島原発は現在でも不安を与え続けています.

 この不安は私の心臓とは違い、多くの人が共通して持つ不安であり、個人のものより深い部分からそれぞれの存在を脅かしているのだと考えられます.

 科学万能の近代文明は「心」を忘れ去ってしまったと言われますが、フクシマはその代表的なものです.


 深層心理学では意識とは別に無意識というものが存在すると仮定します.

 人間は意識を磨きあげることでその文明を進化させてきました..特に西洋の近代文明は自我の発達を尊重し、近代自然科学の発展は意識と無意識とのつながりを希薄なものとしてしまいました.

 その無意識の存在をないがしろにした人間は全体性を喪失し、その結果多くの人が漠然とした不安を抱くようになっています.

 この不安を解消するには、もう一度自分の無意識の部分をさぐり、人間の全体性を回復する必要があります.

 その手掛かりとなるのが、「臨床の知」あるいは「神話の知」とよばれるものなのです.

関連文献:
「臨床の知とは何か・中村雄二郎」、「コンプレックス・河合隼雄」「無意識の構造・河合隼雄」

●抜歯しないで分割で保存できるでしょうか=できると思います=歯科Q&A2018年01月04日



歯周病は怖くない」を拝読しご相談させて頂く次第です。

P31に、末期歯周炎で骨の吸収が進んでいている方に、歯根の分割治療を施された症
例が載っていますが、当方にも適応の可能性があるかお伺いします。

4,5年前にクラウンをかぶせた左下6番について。
二年前に外側歯肉におできのような口内炎ができ、歯周病の始まりということで、か
かりつけ医院でレーザーで切って頂きました。
しかし、その後もその場所には相変わらず常にぷっくりできておりました。

ひと月前、この左下6番がうずいて浮く感じがしたのでレントゲンをとってもらうと
歯根の分岐点から下の部分が真っ黒で、歯周病で(たしか内側とおっしゃたと思いま
すが)骨が溶けてなくなっているとのことでジスロマックを処方していただき、二週
間後にレーザーで切開し膿を出しましたが、歯茎がぽっかり空いています。 
指で動かすと動揺します。

歯根が割れているか、細菌感染しているから抜歯をすすめられたのですが、もし分割
治療で何年か延命できる見込みあるなら是非検討させて頂きたいと思っております。
ただ、ほかの歯の歯槽骨はほぼ正常ですので、歯周病というのとちょっと違うようで
す。

また私の場合、食いしばりが強いので、一月からナイトガードを始めました。

穴からまだ膿が出ているような気もし、早く悪いところを直さねば両隣の歯槽骨も
もっとなくなりそうで焦っております。

見込みがあるかどうかお知らせいただけましたら幸いに存じます。

よろしくお願いいたします。



 「歯周病は怖くない」をお読みくださり、有難うございます.

 ご質問は分割治療で何年か延命できる見込みがあるかということだと思いますが、延命の可能性は高いと思います.

 おできのような口内炎のことを膿瘍といいます.
 この膿瘍は根分岐部の病変が関係していると思います.
 根の分岐部になぜ病変ができたのか分かりませんが、原因としては歯根の破折か歯周病が考えられます.場合によっては根管の感染もあるかもしれません.

 はっきりしたことは申し上げられませんが、メールの内容から判断すると、歯を保存する処置を試してみる価値はありそうです.

 処置としては冠を除去して、根の分割あるいは根管治療などが必要になると思います.

 なお、この状態でおいておいても、両隣の歯に影響を与えることはありませんのであまり心配なさらない様にお願いします.
 詳しくは小西歯科医院のホームページ「抜かずに治す」の項目のうち「抜かないと他の歯に影響を与える」や「抜かないと隣の歯まで溶けてしまう」をご覧ください.

 歯根分割した症例写真はホームページでごらんになれます.


 小西歯科医院
  小西 昭彦


●歯根破折は抜かなくてはいけないのでしょうか?:歯科Q&A2018年01月05日

 

 2018年最初の初診は左下第一大臼歯を抜歯したほうがよいと言われた患者さんでした.

 X線写真を撮ってみると、左下のその歯は二本ある歯根のうち奥の方(遠心根)が破折していました.

 二根のうちの一本だけが破折しているのであれば、多少手間がかかるとしても、分割抜去のほうがよいことは言うまでもありません.
 全部抜いてしまってはもったいないことこの上もありません.

 2軒の歯科医院に治療法を聞きに行ったそうですが、いずれの歯科医にも抜歯と言われたそうです.
 抜歯後の処置については、一軒目のかかりつけの歯科医では抜いてインプラントか入れ歯、二軒目の歯科医には、このまま放置しておくと大変なことになるから、とにかく抜いてしまって、補綴物のことは後で考えましょうと言われたそうですが、インプラントを入れたい気配満々だったとのことです.

 インプラントを埋入するのであればそれなりにスペースが必要なので、分割抜去はありえません.
 一本丸ごと抜いてしまわないと、インプラントを入れるスペースが生み出せないからです.


 患者さんはインプラントはあまり入れたくないというのが希望でした.
 もちろん抜歯もしたくないのですが、一番心配していたのは、このまま放置しておくと、歯槽骨吸収がどんどん進んで大変なことになる、と言われたことでした.

 視診では歯肉に膿瘍を形成しているなどの症状は認められず、自覚症状もまったくありません.
 X線写真では多少の陰影は認められますが、それほど大きな骨吸収は認められません.
 しかも割れてしまったことがはっきり確認できる二つの遠心根はかなり離れて存在しているので、この歯根破折は破折を起こしてからずいぶん時間がたっている可能性が高そうです.
 つまり、この患者さんの場合、破折がおこったのは3年から5年くらい前ではないかと推察できるので、今さらあわてて抜歯する必要は毛頭ないわけです.

 骨吸収や歯根破折など通常見慣れないX線像をみると、どうしてよいか分からなくなって抜歯ししたくなったり、抜いてインプラントという歯科医の気持ちも分からなくはありません.しかし、たまたま撮影したX線写真に映った像で破折を見つけたからといって、根拠もなく「大変なことになる」と騒ぎ立てて、抜歯とインプラントを勧める態度は感心しません.

 ちなみに患者さんと話し合った結果、私たちが出した結論は、分割抜去も抜歯もせず、このまましばらく様子をみるというものでした.

 歯科医の仕事は歯を削って冠をかぶせたり、歯を抜いてインプラントを入れることではありません.
 患者さんの口の健康を守ることです.

 この患者さんの場合、経過観察をすることが口の健康を守るのに一番よいと判断したわけです.

http://www.asahi-net.or.jp/~pi5a-kns/