●歯根破折は抜かなくてはいけないのでしょうか?:歯科Q&A2018年01月05日

 

 2018年最初の初診は左下第一大臼歯を抜歯したほうがよいと言われた患者さんでした.

 X線写真を撮ってみると、左下のその歯は二本ある歯根のうち奥の方(遠心根)が破折していました.

 二根のうちの一本だけが破折しているのであれば、多少手間がかかるとしても、分割抜去のほうがよいことは言うまでもありません.
 全部抜いてしまってはもったいないことこの上もありません.

 2軒の歯科医院に治療法を聞きに行ったそうですが、いずれの歯科医にも抜歯と言われたそうです.
 抜歯後の処置については、一軒目のかかりつけの歯科医では抜いてインプラントか入れ歯、二軒目の歯科医には、このまま放置しておくと大変なことになるから、とにかく抜いてしまって、補綴物のことは後で考えましょうと言われたそうですが、インプラントを入れたい気配満々だったとのことです.

 インプラントを埋入するのであればそれなりにスペースが必要なので、分割抜去はありえません.
 一本丸ごと抜いてしまわないと、インプラントを入れるスペースが生み出せないからです.


 患者さんはインプラントはあまり入れたくないというのが希望でした.
 もちろん抜歯もしたくないのですが、一番心配していたのは、このまま放置しておくと、歯槽骨吸収がどんどん進んで大変なことになる、と言われたことでした.

 視診では歯肉に膿瘍を形成しているなどの症状は認められず、自覚症状もまったくありません.
 X線写真では多少の陰影は認められますが、それほど大きな骨吸収は認められません.
 しかも割れてしまったことがはっきり確認できる二つの遠心根はかなり離れて存在しているので、この歯根破折は破折を起こしてからずいぶん時間がたっている可能性が高そうです.
 つまり、この患者さんの場合、破折がおこったのは3年から5年くらい前ではないかと推察できるので、今さらあわてて抜歯する必要は毛頭ないわけです.

 骨吸収や歯根破折など通常見慣れないX線像をみると、どうしてよいか分からなくなって抜歯ししたくなったり、抜いてインプラントという歯科医の気持ちも分からなくはありません.しかし、たまたま撮影したX線写真に映った像で破折を見つけたからといって、根拠もなく「大変なことになる」と騒ぎ立てて、抜歯とインプラントを勧める態度は感心しません.

 ちなみに患者さんと話し合った結果、私たちが出した結論は、分割抜去も抜歯もせず、このまましばらく様子をみるというものでした.

 歯科医の仕事は歯を削って冠をかぶせたり、歯を抜いてインプラントを入れることではありません.
 患者さんの口の健康を守ることです.

 この患者さんの場合、経過観察をすることが口の健康を守るのに一番よいと判断したわけです.

http://www.asahi-net.or.jp/~pi5a-kns/