●誤診で歯を抜かれてしまうところだった2018年01月06日

 

 久しぶりに来院した患者さんの来院理由は「抜かなくてはいけないのか診てほしいほしい」ということでした.

 この方の初診はほぼ2年くらい前で、そのときは「3本抜歯と言われたが本当に抜くしかないのだろうか」と、セカンドオピニオンを求めての来院でした.

 本人にはほとんど自覚症状はなく、歯肉がときどき腫れるのが気になる程度ということでした.
 X線写真を撮ってみると抜歯と言われた3本の歯は、中程度の歯周炎で垂直性の骨吸収を認めるものの、私からすればまったく抜く必要はない歯です.

 担当医は歯周炎が進んでいるので抜歯と言ったようですが、ブラッシングをすることで十分改善が期待できる歯です.
 このような歯を抜いていたのでは、歯は何本あっても足りません.

 その時は治療のブラッシングの指導を衛生士にしてもらって、抜かずに経過をみていくことにしました.

 その後、何事もなく経過していたのですが、定期的にクリーニングしてもらっている歯科医院で、左上の小臼歯にヒビが割れているので、抜かなくてはいけないと言われ、抜歯しないで治療できないだろうかということで来院したわけです.

 口の中を拝見すると左上第一小臼歯の側面に破折線らしきものがみえます.
 探針でさぐってみると確かに溝があるようです.
 この歯は歯槽骨の吸収があり、以前も抜歯といわれた歯なので、その歯が破折したとなると治療はかなり難しくなりそうです.
 ただ、救いはご本人にはまったく自覚症状がなく、膿瘍などの諸症状も見当たらないことです.

 X線の状態によっては、中途半端に介入するより少し経過をみたほうがよいかなと考えながら、デンタルX線写真と口腔内写真を撮影しました.

 X線写真をみると、骨吸収は想像していたものよりずっと状態はよく、垂直性骨吸収の一部はうっすらと改善しているような感じもあります.
 
 以前の口腔内写真と今日撮ったものとを比べてみると、歯肉がの炎症が消退して歯根がずいぶん露出してきているのがわかりました.以前は隠れていた歯根部が見えてきたので、歯根面の溝が目で見えるようになってきたわけです.

 その溝を口腔内写真でみると、溝を境にその奥と手前の色が違っているのが分かります.手前は失活歯特有の黒っぽい色で、奥の方は少し光沢のある黒です.ちょっとおかしな感じがするので、もう一度口の中を確認してみると、奥側は銀合金の黒、手前が歯根の黒で、溝というのは銀合金のコアと歯根との接触部にある段差であることが分かりました.

 つまりその歯には破折のハの字の徴候もなかったのです.
 歯と歯の間のしかも歯根部という、非常に見にくいところなので、歯根に亀裂が入っていると間違えてしまうこともありそうです.

 しかし、たとえ視診で破折線が認められたとしても、X線診断でも問題はなく、自覚症状もない歯を抜いてしまおうというのは乱暴です.

 この程度の判断で抜かれてしまっている歯がたくさんあると思うと、ちょっと悲しくなってしまいます.

 患者さんの希望がなければ、抜かないでしばらく様子をみるようにするべきです.
 あわてて抜いても良いことはひとつもありません.

 この方はわざわざ関西方面からいらっしゃった方ですが、歯を一本失わなくて済んだので、遠方から来ていただいたかいがあったのではないかとちょっとホッとしています.
 
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