●”歯を担当する医者”(5)=重度歯周病の治療モデルが臨床を変えた=2018年01月15日

 安保免疫論と出会って、重度歯周病の原因は細菌とストレスであることは間違いないと確信するようになりました.

 しかし、原因は分かっても、重度歯周病の治療に原因除去療法が適用できないという困った事態に陥ってしまいました.

 なぜなら、原因であるストレスが非常にやっかいなしろものだからです.


 一口にストレスといっても、ストレスにはいろいろな種類があり、ストレスがあることを自覚してない人もたくさんいます.
 たとえストレスを自覚していたとしても、その内容は他人に話したくないものがほとんどで、ストレスの実態をつかむことはなかなかできません.

 重度歯周病とストレスの関連を説明したところ、家庭内のいざこざで強いストレスを感じていた、と告白してくれた女性がいました.
 重度に歯周病が進行してしまったのは、そのストレスが原因であることは間違いありません.しかし、そのストレスを歯科医が取り除くことはできませんし、患者さんもそのストレスから逃れるすべを知りません.
 つまり、たとえストレスの内容がわかっても原因除去療法を適用することができないわけです.

 それでは、重度歯周病への対応はどのようにしたらよいのでしょうか?

 途方に暮れているときに、解決のヒントを河合隼雄先生の著作に見つけました.


 その本に、窃盗を重ねる子どもへの対応に関して
『その子がなぜ窃盗を繰り返すのかという原因探しをしても何の解決にもならない.それよりも子どもの傍にいて、期待を失わず、可能性を信じていることがもっとも早い解決策である』(河合隼雄.心理療法序説.岩波書店)
という一文がありました.

 その子どもが窃盗を繰り返す原因は家が貧しいからだ、親の教育が悪かったからだ、と原因捜しをしてもはじまらない.『窃盗をせざるを得ない状況に陥っている子どもに、今われわれに何ができるのか』という視点で考えることが大切なのだと河合先生はいいます.

 同じ本の中で心理療法に関して、医学モデル、教育モデル、成熟モデルなどの治療モデルが取り上げられています.そして、どのような治療モデルが心理療法にふさわしいのかが説明されています.

 医学モデルというのは
『症状→検査・問診→病因の発見(診断)→病因の除去・弱体化→治癒
という考えにのっとって治療を行うもので、特定病因説に基づいた原因除去療法のことです.
 通常、病気の治療はこの考え方によって行われており、歯科治療も例外ではありません.

 教育モデルというのは
『問題→調査・面接→原因の発見→助言・指導による原因の除去→治癒』
 というもので、”調査・面接”および”助言・指導による原因の除去”というのが医学モデルと異なってきますが、これも原因―結果の因果律に基づいた治療法で、片山式歯周病治療法はこのモデルに近いものがあります.

 成熟モデルというのは河合先生が考え出したモデルと思われ
『問題→治療者の態度により→クライエントの自己成熟過程が促進→解決が期待される』
 と書かれています.
 この治療モデルは、上の二つのモデルと違って、治療の主体をクライエントにするという点で画期的なものです.

 河合先生が書いているのは心理療法の治療に関するモデルですが、クライエントの自己成熟過程を患者の自立とすれば、そのまま重度歯周病の治療にも適用できそうです.

 つまり
『問題→治療者の態度→患者の自立→解決が期待される』
というのが、重度歯周病の治療モデルということになります.

 このモデルでは、”問題”、”治療者の態度”、”患者の自立”など、使われている用語がかなり漠然となってしまいますが、重度歯周病には一義的な解釈ではとらえきれない部分がたくさんあるので、このような表現で歯周治療の多様性をカバーすることになります.
 
 しかし、このような治療の枠組みを自分のものにできると、重度歯周病の治療法がはっきり見えてくるようになります.
 そして、私にとって”重度歯周病治療のモデル”の発見が、自分自身の歯科臨床のターニングポイントになったということがいえます.




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