●”歯を担当する医者“(2)=片山式歯周病治療は難しい=2018年01月12日

 片山セミナーを受講してから、”歯を治療する医者”ではなく“歯を担当する医者”を目指そうと心に決めました.

 片山先生が仰っていた”歯を担当する医者”というのは、歯周病治療の一環として、一口50回噛みにはじまる食生活改善を行うことにより、歯科疾患だけではなく全身の健康に寄与する歯科医のことです.

 ”歯を担当する医者”になるには、患者さんに歯周病治療としての生活改善を提案し、患者さん自らがその必要性を認識し、生活改善を行なう必要があります.
 しかし、それをを達成するのは並大抵のことではありませんでした.
 
 患者さんは、歯周病が生活習慣病であるということはある程度分かっていても、一口50回噛みを歯周病の治療として受け入れてくれる人はいませんでした.
 ”一口50回噛み”が歯周病治療に必要であることが理解できても、多忙な生活の中でそのことを実践していくのはほとんどの人にとって不可能といってよいほどの難事業だったのです.


 私自身の中にも、一口50回噛みをするしないが歯周病治療と直結するのだろうか、食生活を変えなければ重度の歯周病は治せないのだろうか、という疑念がありました.
 患者さんの中には、良く噛んで食べていても重度の歯周病を発症してしまう人がいる一方で、ジャンクフードを食べていても健康な歯周組織を維持している人もいたからです.

 食養や食育をはじめとして、”食”の問題は歯科医療の分野で大事なことは確かだと思います.
 しかし、食生活が歯周病の直接的な原因になるのか、どのような食生活をすれば歯周病の治療になるのか、重度歯周病の治療ではすべての人が玄米がゆかにしなければいけないのかなど、多くの疑問点をもちながら臨床に携わっていたわけです.

 勢い込んではじめた食生活改善指導でしたが、患者さんに生活改善を提案してもなかなか受け入れてもらえない、食生活が歯周病の原因になるのかどうか疑わしく思うように思っていた、という二つの理由から、歯周病治療において食生活改善の提案をするということが徐々に少なくなってしまいました.

 生活改善により“歯を担当する医者”を目指すという私の前途に暗雲が立ち込めてきました.


 しかし、途方に暮れる私の前に一条の光が差し込んできました.
 歯周病の発症と生活の在り方には強い関連性があると指摘しているお医者さんを知ったのです.
 免疫学者の安保徹先生です.

●”歯を担当する医者”(1)=歯を担当する医者をめざす=2018年01月11日


片山歯研」セミナーの風景、1992年

 私は片山恒夫先生のセミナーで歯科医療の何たるかを教わりました.

 セミナーではいくつもの問題提起があったのですが、その中の一つに
「キミたちは歯を治療する医者になりたいのか、歯を担当する医者になりたいのか」
という問いかけがありました.

 “歯を治療する医者”というのは、むし歯の穴を詰めたりインプラントを入れたりすることを治療の目的としている歯科医です.
 “歯を担当する医者”というのは歯科疾患の治療を通して全身の健康にまで寄与することができる歯科医のことです.

 歯周病治療に関していえば、歯周病が進行してグラグラで排膿が止まらない歯を簡単に抜いてしまって、インプラントやブリッジにしてしまうのは“歯を治療をする医者”.
 重度の歯周病の歯でも、その歯を救うにはどうすればよいかを考え、歯周病の原因をさぐり、口だけではなく全身の健康まで考えられるのが“歯を担当する医者”ということになります.

ルイ・パスツール

  その病気の原因をみつけ、それを除去することにより病気を治すというのは近代医学の基本的考え方です.

 1960年代当時、歯周病の原因は細菌性プラークだと考えられていたので、歯周病の治療も近代医学の原則にのっとって、原因である細菌を除去すれば治せると考えられていました.

 しかし、20世紀の終盤になって、重度歯周病は多因子性の疾患で、細菌以外の原因が関与していると考えられるようになり、細菌に対するアプローチだけでは重度歯周病の治療は不十分であることが分かってきました.

 このことに欧米の歯周病学者が気付くはるか以前に、歯周病の原因は細菌だけではないことを指摘していたのが片山先生です.
 片山先生は、その人の生活そのものに病因があると考え、歯周病治療では細菌の除去とともに生体の抵抗力を高める必要があるとしてして、“片山式歯周病治療法”を編み出しました.

 生体の抵抗力を高めるために片山先生が推奨したのが、一口50回噛みによる食生活改善や真向法というストレッチ体操、呼吸法などでした.
 これらの行為をすることで、生体の本来持っている自然良能を活性化して歯周病を撃退する抵抗力を高めるとともに全身の健康を維持増強しようと考えました.

 これがすなわち”歯を担当する医者”のおこなう歯科医療です.

 私は”歯を担当する医者”になりたいと思いました.そこで、患者さんに生活改善を行ってもらえるような歯科臨床を目指そうと思いました.

 しかし、その道のりは予想外に困難であることを、その時はまだわかっていませんでした.



●歯周外科手術は必要でしょうか?=手術の効果は限定的です=歯科Q&A2018年01月10日



 現在アメリカ在住の60代の女性です。
 私はこちらで一番奥の歯が片方が8mm、もう一方が6mmのポケットがあり、歯茎を切る手術をするように勧められています。
 本当に手術をしなければならなければいけないのであれば、するつもりにはしております。
 しかし切らなくて済むのであればと、その可能性を伺いたく、思い切ってメールを差し上げました。



 歯周外科の必要性に関してですが8mm程度の歯周ポケットがあるからといって、慌てて手術する必要はありません.

 ポケットの深さは歯周病がどの程度進んでいるかの目安で、測定者によっても数値が変わってきますし、歯周組織の状態によっても体調によっても変わってきます.
 深い歯周ポケットがあっても、ブラッシングなどの基本的な処置をきちんとして、様子をみていくのが歯周病治療の王道です.

 スェーデンのリンデ先生やアメリカのランフォード先生をはじめとして、歯周病学者は外科処置をしてもしなくても経年的にその結果はあまり変わらないという研究結果を発表しています.((1)~(6))
 歯周炎の治癒に関して、長期的な目で見ると、手術をしてもしなくてもその結果に差はないので、手術の必要はないという結論です.

片山恒夫先生

 片山式歯周病治療は外科手術を行わないことがその特徴ですが、片山先生が非外科処置にこだわったのは以下のような理由からです.

1.歯肉を切って根元をそうじするだけのフラップ手術をしても、それで原因が除去できるわけではない
2.手術をしなくても片山式ブラッシングだけで治すことができる
3.手術をしたからといって、その後もきちんとしたブラッシングを続けなくてはならない
4.手術でも救えないような重度の歯周病でも片山式歯周治療で治すことができる
5.手術はたとえ軽いものでも、歯根露出やブラックトライアングルの出現などの障碍がブラッシングで治したものよりはなはだしい.
6.手術をすると、これだけ大変な思いをしたのだから、と患者さん自身のケアがおろそかになってしまう傾向がある.
 以上です.

 歯周病治療の結果を早く出して歯周補綴を急ぐ歯科医は、手術を勧めるかもしれませんが、きちんとした基礎治療をおこなうのが歯周病治療の基本です.
 あまり簡単に手術に踏み切らない方がよいと思います.

 歯周病の手術は、痛い思いをして、お金をとられるだけで、あまり良いことはないと思います.
 歯周病の治療では、その部を含めてしっかり歯ブラシすることが一番です.
 それで、十分目的は達せられます.

非外科処置に関する論文
(1) Lindhe.J, Westfelt.E,Nyman S,Socransky SS, Haffajee AD
"Long-term effect of surgical/non-surgical treatment of periodontal disease"
Journal of Clinical Periodontology(1984)
「歯周治療成功の決定因子は外科とか非外科とかではなく、歯根表面の廓清の質による」

(2)Ramfjord.S.P,"4 modalities of periodontal treatment compared over 5 years",Journal of Clinical Periodontology(1987),
「4つの異なった術式の5年間をフォローアップした結果、術式による効果の相違は認められなかった」

(3) Kaldahl WB et al,"Long-term evaluation of periodontal therapy:1.Response to 4 therapeutic modalities",Journal of Periodontology(1996)
「3種類の術式の7年間の経過を比較したが、術式による予後の相違は認めなかった」

(4) Kaldahl WB et al,"Long-term evaluation of periodontal therapy:2.Incidence of sites breaking down"Journal of Periodontology(1996),
「長期に経過を観察すると術式による際だった相違は認められず、それぞれ治療の効果はあがっている」

(5) Renvert S et al,"5-year follow up of periodontal intraosseous defects treated by root planing orflap surgery",Journal of Clinical Periodontology(1990),
「ルートプレーニングとフラップオペの5年後のアタッチメントレベル、骨レベルに差はなかった」

(6) Kaldahl WB ei al,"A review of longitudinal studies that compared periodontal therapies"Journal of Periodontology(1993),
「経時的に観察すると外科と非外科の予後に相違は認められない」

関連項目


●害のないことが第一(Primum non nocare)=インプラントや矯正の害にご注意ください=2018年01月09日



 歯科医がその患者さんの治療を担当するときにまず考えなければいけないのは、患者さんに健康上の“害”を与えないということです.

 歯科治療には必ずプラスの面とマイナスの面が共存するので、そのマイナス面を大きくしないことが大切です.

 むし歯を治療するときには、健康な歯もある程度削らなければならないというマイナス面があります.
 しかしこの場合、健康な歯質が除去されてしまうことより、むし歯の進行を止めるというプラスの面の方が大きいので、健康歯質の削除は健康上の“害を与える”ことにはなりません.

 しかし、歯科治療はむし歯治療のように“害”の有無を簡単に判断できる処置ばかりではありません.
 そのときはよくても将来とんでもない問題を引き起こすことがとてもたくさんあるからです.


 私は歯科臨床に携わって40年近くになりますが、経験を重ねるにつれ当初は同じように見える歯科治療も時間経過とともにマイナス面が大きくなるものとプラスの状態を維持し続けるものがあることが良く分かってきました.

 同じ充填(じゅうてん)処置でも、10年、20年たってもびくともしていないものもありますし、数年で簡単にだめになってしまうものもあります.

 特に今はやりのインプラントや審美歯科、矯正治療、咬合治療など、口の中を大幅に改変する処置は、治療後しばらくの間はプラス面が大きくても、時間が経つにつれ、無理したつけが回ってきて取り返しのつかない事態になってっしまうことが多いようです.

 インプラント医も矯正歯科医もその症例を何十年もフォローしている人はほとんどいないので、15年後、20年後にそのマイナス面に気がつくことはありません.

 大きな歯科治療が長い時間経過してトラブルを引き起こしていることに気がつくのは、いろいろな症例をみてきた私のような老歯科医しかいません.
 中でも、矯正治療は歴史も古く、かなり一般的に普及してきているので、その被害は激増しているように思います.

 後戻りのきかない大きな治療は十分調べ、よく考えてから歯科治療を受けるようにお願いします.

 歯科治療は害のないのが一番です.

関連項目:

●歯ぐきに膿がたまった状態を治せるでしょうか?=原因によって対応が異なります=歯科Q&A2018年01月08日


 
 
 最近、過労からか以前治療した奥歯の歯茎が腫れ、膿が溜まった状態になります。
 腫れは食事の時などにひどくなりしばらくすると収まることの繰り返しになっております。

 ネットで見る限りでは以前の治療が十分でなく、歯茎の中に細菌がおりストレスや過労などから滅菌する抵抗力が落ち、腫れてきてしまうと記述がありましたが効果的な治療法はございますでしょうか。
 もしあればご教示いただければ幸甚でございます。


 奥歯の歯茎が腫れ、膿が溜まった状態になるということですが、歯茎が腫れる原因としては大きく分けて三つほど考えられます.

1)根の先に病変ができていて、そこに膿がたまって、歯茎に腫れがでる場合(根尖病変)
2)歯が割れていて、そこからバイ菌が入り膿をもつ場合(歯根破折)
3)歯と歯肉の間からバイ菌が入り膿をもつ場合(歯周病)
 の三通りです.その他にも膿をもつ場合がありますが、ほとんどはこの三つだと考えてよいでしょう.

 ネットにあった記述は(1)の根尖病変を念頭に書かれたものだと思います.
 今回の場合、腫れが食事の時にひどくなるということなので、根尖病変も考えられますが、(2)の歯根破折の可能性が高そうです.
 歯周病の可能性は低いと思います.

歯槽膿漏-抜かずに治す p190

 膿がたまった原因によって治療法は異なりますが、根尖病変の場合は根管治療を行います.
 根管治療というのは根管の感染物質を除去する治療で、そのことによって膿を止め、根尖病変を改善することができます.
 
 歯根破折の治療としては、破折部の接着(内部接着、外部接着)、破折片の除去、歯根分割、根分割抜去などが考えられます.
 歯根破折で膿を持った場合、内部接着や外部接着による対応は難しくなります.

関連項目:

http://www.asahi-net.or.jp/~pi5a-kns/