●”歯を担当する医者”(6)=話し合いを大切にする=2018年01月25日

 重度歯周病の治療モデルを把握したことで、私の歯科臨床が変わりました.

『問題→治療者の態度→患者の自立→解決が期待される』
というのが、重度歯周病の治療モデルです.

 このモデルは患者さんが歯周病治療の主役であるということが、他の治療モデルと根本的に異なっています.
 患者さん主体の歯科医療というのは、患者さんが自分の問題に気づき、問題解決のために自ら動き、歯科医療者はその一連の行動を援助するというものです.

医の心5

 この考え方は特に目新しいものではなく、
中川米造先生が
『医師には”魔法医””学者””科学者””技術者”の四つの顔があり、それぞれに弊害があり、これからの医者は援助者でなければならない』(医療の五つの顔・医の心㈤・丸善株式会社)
といっていたこと、
片山恒夫先生がその著書『歯槽膿漏-抜かずに治す(朝日新聞社)』のまえがきに
『歯周病治療は患者さんの”自覚””自助””自立”が必要”である』
と書いてあることと同様のことです.

 患者主体の歯科医療が重要であるということは、20年以上も前に、片山先生や保健医療行動科学会の勉強会で中川先生からじきじきに教わっていたことなのですが、残念ながら頭で理解していたに過ぎませんでした.
 それが安保免疫論で歯周病の原因を理解し、河合先生の心理療法の成熟モデルを知ることで、自分の臨床のなかで実践できるようになったわけです.

 それまでの臨床と何が違ってきたのかというと、まず医療面接といわれる患者さんとの話し合いの内容が変わったことがあげられます.
 医療面接というのは初診時の問診や診査診断後に、診療台でない場所で患者さんと歯科医が向きあって話し合うことです.


 それまでの医療面接は歯周病の原因である細菌の除去や生活改善の重要性を伝えることが主なもので、歯科医から患者さんに対する指導、教育といったおもむきが強いものでした.

 しかし、安保免疫論との出会いによってストレスも重度歯周病の原因の一つであることが分かってきたことで、それまでの『助言・指導による原因の除去→治癒』という教育モデルが通用しないことがはっきりしてきました.

 そこで医療面接も『原因を除去するにはどうしたらよいか』を指導するではなく、『原因探しをしても何の解決にもならない.今われわれに何ができるのかという観点で話し合う』という形に変わっていきました.
 患者さんが何に困っているのかを懸命に聴き、それを解決するにはどのようにしたらよいのか真剣に話し合う医療面接を行うようになったわけです.

 初診時の問診にさける時間は30分程度しかないので、その不足を補うために来院前にメールや手紙で現状や困っていることを連絡してもらうなど、なるべく内容の濃い医療面接を行うように努力しはじめました.

 そして今まで気がつかなかっことが見えてくるようになりました.

  それは歯周病という病気が持っている多様性です.
 同じ歯周病であってもその病態はさまざまですし、歯周病に対する考え方は患者さんによって大きく異なります.そして、その治療法も歯科医によって違っているということです.

 この患者さんの患者さんの考え方や治療法がさまざまであることに気が付いたことが、自分自身の臨床を振り返るきっかけとなったのです.
 
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○医学モデル:『症状→検査・問診→病因の発見(診断)→病因の除去・弱体化→治癒』
○教育モデル:『問題→調査・面接→原因の発見→助言・指導による原因の除去→治癒』
○成熟モデル:『問題→治療者の態度により→クライエントの自己成熟過程が促進→解決が期待される』
○重度歯周病の治療モデル:『問題→治療者の態度→患者の自立→解決が期待される』
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関連項目:

●”歯を担当する医者”(5)=重度歯周病の治療モデルが臨床を変えた=2018年01月15日

 安保免疫論と出会って、重度歯周病の原因は細菌とストレスであることは間違いないと確信するようになりました.

 しかし、原因は分かっても、重度歯周病の治療に原因除去療法が適用できないという困った事態に陥ってしまいました.

 なぜなら、原因であるストレスが非常にやっかいなしろものだからです.


 一口にストレスといっても、ストレスにはいろいろな種類があり、ストレスがあることを自覚してない人もたくさんいます.
 たとえストレスを自覚していたとしても、その内容は他人に話したくないものがほとんどで、ストレスの実態をつかむことはなかなかできません.

 重度歯周病とストレスの関連を説明したところ、家庭内のいざこざで強いストレスを感じていた、と告白してくれた女性がいました.
 重度に歯周病が進行してしまったのは、そのストレスが原因であることは間違いありません.しかし、そのストレスを歯科医が取り除くことはできませんし、患者さんもそのストレスから逃れるすべを知りません.
 つまり、たとえストレスの内容がわかっても原因除去療法を適用することができないわけです.

 それでは、重度歯周病への対応はどのようにしたらよいのでしょうか?

 途方に暮れているときに、解決のヒントを河合隼雄先生の著作に見つけました.


 その本に、窃盗を重ねる子どもへの対応に関して
『その子がなぜ窃盗を繰り返すのかという原因探しをしても何の解決にもならない.それよりも子どもの傍にいて、期待を失わず、可能性を信じていることがもっとも早い解決策である』(河合隼雄.心理療法序説.岩波書店)
という一文がありました.

 その子どもが窃盗を繰り返す原因は家が貧しいからだ、親の教育が悪かったからだ、と原因捜しをしてもはじまらない.『窃盗をせざるを得ない状況に陥っている子どもに、今われわれに何ができるのか』という視点で考えることが大切なのだと河合先生はいいます.

 同じ本の中で心理療法に関して、医学モデル、教育モデル、成熟モデルなどの治療モデルが取り上げられています.そして、どのような治療モデルが心理療法にふさわしいのかが説明されています.

 医学モデルというのは
『症状→検査・問診→病因の発見(診断)→病因の除去・弱体化→治癒
という考えにのっとって治療を行うもので、特定病因説に基づいた原因除去療法のことです.
 通常、病気の治療はこの考え方によって行われており、歯科治療も例外ではありません.

 教育モデルというのは
『問題→調査・面接→原因の発見→助言・指導による原因の除去→治癒』
 というもので、”調査・面接”および”助言・指導による原因の除去”というのが医学モデルと異なってきますが、これも原因―結果の因果律に基づいた治療法で、片山式歯周病治療法はこのモデルに近いものがあります.

 成熟モデルというのは河合先生が考え出したモデルと思われ
『問題→治療者の態度により→クライエントの自己成熟過程が促進→解決が期待される』
 と書かれています.
 この治療モデルは、上の二つのモデルと違って、治療の主体をクライエントにするという点で画期的なものです.

 河合先生が書いているのは心理療法の治療に関するモデルですが、クライエントの自己成熟過程を患者の自立とすれば、そのまま重度歯周病の治療にも適用できそうです.

 つまり
『問題→治療者の態度→患者の自立→解決が期待される』
というのが、重度歯周病の治療モデルということになります.

 このモデルでは、”問題”、”治療者の態度”、”患者の自立”など、使われている用語がかなり漠然となってしまいますが、重度歯周病には一義的な解釈ではとらえきれない部分がたくさんあるので、このような表現で歯周治療の多様性をカバーすることになります.
 
 しかし、このような治療の枠組みを自分のものにできると、重度歯周病の治療法がはっきり見えてくるようになります.
 そして、私にとって”重度歯周病治療のモデル”の発見が、自分自身の歯科臨床のターニングポイントになったということがいえます.




関連項目:


●“歯を担当する医者”(4)=原因除去療法が通用しない=2018年01月14日

 ある病気にはその病気に特定の原因がある、という考え方を特定病因説といいます.

 近代医学では診査診断をして、その病気の原因を見つけ出して病気を治すという考え方がその治療法の基本にあります.
 たとえば、結核の原因は結核菌なので、結核菌を除去することで治すことができます.壊血病はビタミンCの欠乏がその原因なのでビタミンCを補給して治すというのが、近代医学の治療法です.

 これらの治療法のもとになっている考え方が特定病因説です.


 片山式歯周病治療法も歯周病の原因を見つけ出しその原因を除去して治癒に導くという”特定病因説”に基づいた治療法です.

 片山先生が歯周病の原因であると考えたのは細菌性プラークとよく噛んで食べなくなった現代の食生活です.
 火食、軟食の文明食が歯周組織の抵抗力低下を招き、それが歯周病の原因になると考えたわけです.そのために、よく噛んで食べるが歯周病の治療に必要であると考えたわけです.
 つまり、片山式歯周病治療というのは、細菌とよく噛まない食生活が原因で、その原因を除去することで歯周病を治そうという特定病因説に基づいた治療法だったわけです.


  特定病因説によって近代医学は格段の進歩をとげましたが、病気の中には“特定病因説”が当てはまらない疾患がたくさんあります.
 糖尿病などの生活習慣病や関節リウマチなどの自己免疫疾患や精神病などがそれにあたります.

 これらの病気は原因-結果と明瞭につながる病因をみつけることができないので、原因を除去するという治療法が通用しないのです.

 実は、組織破壊の著しい重度歯周病もこの原因除去療法が通用しない疾患のひとつだと考えられています.
 歯肉炎など軽度の歯周病では原因はほぼ細菌だけといってよいので、原因除去療法が効果を発揮します.
 しかし、重度歯周病は多因子性の疾患で、原因がよくわかっていない部分が多く、原因除去療法が通用しないと考えられているわけです.

 しかし、私は安保免疫論の視点で歯周病の基礎論文を調べるた結果、ストレスが細菌とともに歯周病の原因であることに確信を持つようになりました.
 したがって、重度歯周病の治療でも原因除去療法が通用するのではないかと考えるようになりました.

 実際に重度歯周病の方の話を聞いていると、その急激な歯周組織破壊の前に大きなストレスをこうむっていることが分かります.
 介護で疲れきって日々が続いていた、夫婦間のいざこざで夜も眠れなかった、詐欺にあって何億という損害を会社に与えてしまった、というような重い話が次々と飛び出してきます.

 しかし、ストレスが原因であるとはっきりしても、原因除去療法をおいそれと適用できないことが分かってきました.

 大きなストレスを感じている人に、ストレスが原因ですといっても、そう簡単にストレスを除去できるわけではありません.
 ましてや「よく噛んで楽しく食事をしてください」といっても、それでストレスが解消されるほど甘くはありません.
 そんなことで簡単にストレスから解放されるのであれば、世にストレス性疾患などという言葉は存在しなくなってしまうでしょう.

 安保免疫論によってストレスと重度歯周病には因果関係があることは分かりました.
 しかし、原因が分かったからといって、特定病因説に基づいた原因除去療法が適用できそうにありません.

 では、いったいどのようにアプローチをすればよいのでしょうか.

 ”歯を担当する医者”への道がまた見えなくなってしまいました.




関連項目:

●”歯を担当する医者”(3)=ストレスが歯周病の原因=2018年01月13日

 生活改善により歯周病を治すという片山式歯周病治療の実践が暗礁にのりあげ、“歯を担当する医者”への道が閉ざされかかったとき、一冊の本に出会いました.

 安保徹先生の「医療が病をつくる」という本です.


 この本に、組織破壊を伴う歯周病(重度歯周病)の原因はストレスである、と書かれています.

 ストレスは自律神経のうちの交感神経の緊張をうながし、交感神経の緊張は顆粒球の産生を増加させます.この顆粒球が末梢に送り込まれ、歯周病や胃潰瘍など組織破壊性の疾患を引き起こすというのが、安保先生が提唱した”白血球の自律神経支配の法則”です.
 安保免疫論によれば、副交感神経の優位な人はアレルギー性の疾患に罹患(りかん)しやすくなるといいます.

 食生活でいえば、ラーメンやハンバーガーなどの高カロリーで噛まなくてよい食べものを食べている人は交感神経緊張に傾き、歯周病になりやすくなります.一方、野菜や玄米などよく噛んで食べる人は副交感神経が優位になるので、歯周病になりにくいということになります.

 これは片山先生が歯周病はよく噛まないことが原因で起こるといっていたこととピッタリ符合します.

 また、同じ安保先生の著書「免疫革命」では、組織破壊性の疾患の予防と治療して、呼吸や適度な運動の重要性についての言及があります.
 これらのことも、歯周病に負けない抵抗力をつけるために、呼吸法や真向法というストレッチ運動を推奨した片山先生の考えに一致します.

75歳で真向法を指導する片山恒夫先生

 片山先生は歯周病に打ち勝つために一口50回噛みをおこない脆弱化した歯周組織を活性化し、呼吸法や体操によって全身の抵抗力をつけることが必要であると考えたわけですが、安保免疫論によって、それらの行為が免疫学的にも歯周病治療に有効であることが立証されたわけです.

 片山恒夫という一個人の経験から編み出された片山式歯周病治療が免疫学という最先端の医学からお墨付きをもらったということになります.

 さらに、安保免疫論の視点で歯周病学の基礎文献を調べていくと、「顆粒球過剰が歯周組織破壊をもたらす」ことを裏付けてくれる基礎研究がおどろくほどたくさんあることが分かってきました.

 私は組織破壊性の歯周病では、細菌とともにストレスが大きな役割を演じていることを確信するようになりました.

 歯周病治療ですべての人に組織抵抗を増強するために一口50回噛みをしなさいということには抵抗があったのが正直なところでした.
 しかし、ストレスが歯周組織破壊をもたらすので、副交感神経を優位にさせるようによく噛んで楽しく食事をしてください、ということにはそれほど無理はありません.

 現代は、ストレス関連疾患という用語があるくらいストレスフルな社会です.
 ストレスに対するアプローチが多くの全身疾患の治療や予防に求められています.それが、片山式歯周病治療法を実践することで達成できるわけです.

 そして、歯科治療を通してそのような治療ができれば“歯を担当する医者”に一歩近づくことができそうです.

 これから進むべき道が見えてきたような気がしました.




関連項目:

●”歯を担当する医者“(2)=片山式歯周病治療は難しい=2018年01月12日

 片山セミナーを受講してから、”歯を治療する医者”ではなく“歯を担当する医者”を目指そうと心に決めました.

 片山先生が仰っていた”歯を担当する医者”というのは、歯周病治療の一環として、一口50回噛みにはじまる食生活改善を行うことにより、歯科疾患だけではなく全身の健康に寄与する歯科医のことです.

 ”歯を担当する医者”になるには、患者さんに歯周病治療としての生活改善を提案し、患者さん自らがその必要性を認識し、生活改善を行なう必要があります.
 しかし、それをを達成するのは並大抵のことではありませんでした.
 
 患者さんは、歯周病が生活習慣病であるということはある程度分かっていても、一口50回噛みを歯周病の治療として受け入れてくれる人はいませんでした.
 ”一口50回噛み”が歯周病治療に必要であることが理解できても、多忙な生活の中でそのことを実践していくのはほとんどの人にとって不可能といってよいほどの難事業だったのです.


 私自身の中にも、一口50回噛みをするしないが歯周病治療と直結するのだろうか、食生活を変えなければ重度の歯周病は治せないのだろうか、という疑念がありました.
 患者さんの中には、良く噛んで食べていても重度の歯周病を発症してしまう人がいる一方で、ジャンクフードを食べていても健康な歯周組織を維持している人もいたからです.

 食養や食育をはじめとして、”食”の問題は歯科医療の分野で大事なことは確かだと思います.
 しかし、食生活が歯周病の直接的な原因になるのか、どのような食生活をすれば歯周病の治療になるのか、重度歯周病の治療ではすべての人が玄米がゆかにしなければいけないのかなど、多くの疑問点をもちながら臨床に携わっていたわけです.

 勢い込んではじめた食生活改善指導でしたが、患者さんに生活改善を提案してもなかなか受け入れてもらえない、食生活が歯周病の原因になるのかどうか疑わしく思うように思っていた、という二つの理由から、歯周病治療において食生活改善の提案をするということが徐々に少なくなってしまいました.

 生活改善により“歯を担当する医者”を目指すという私の前途に暗雲が立ち込めてきました.


 しかし、途方に暮れる私の前に一条の光が差し込んできました.
 歯周病の発症と生活の在り方には強い関連性があると指摘しているお医者さんを知ったのです.
 免疫学者の安保徹先生です.

http://www.asahi-net.or.jp/~pi5a-kns/